「どんな理由なら消費者が納得してくれるのか?」は、多くの企業が頭を抱えるテーマ
原材料価格の高騰、人件費の増加、物流コストの上昇など、企業を取り巻くコスト環境は急速に変化している。その結果、多くの企業が価格改定に踏み切らざるを得ない状況にある。しかし、値上げは生活者の不満や離反を引き起こしやすく、発表の仕方ひとつでブランド評価が大きく変わることも珍しくない。
今回のアンケートでは、値上げ理由に対する受容度を尋ねた
半数が「原材料高騰なら仕方ない」と答える理由
最も受容度が高かったのは 原材料価格の高騰(48%) である。
原材料価格の上昇は、ニュースやSNSなどで日常的に取り上げられており、生活者にとって身近で理解しやすい。加えて「企業努力ではどうにもならない外部要因」と捉えられやすいため、“不可抗力なら仕方がない” という心理が働く。
▶ 消費者(筆者)の本音
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「世界全体の流れだから企業のせいではない」
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「原材料が上がれば値上げも当然」
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「自分の日常生活でも物価上昇を体感している」
つまり、生活者自身の実感と企業の説明が一致している ため、高い納得度につながっている。
2. 「従業員の給料増加」に18%が理解を示す背景
次に支持が高かったのが 従業員の給料増加(18%) だ。
この理由が意外に高い割合を占めた背景には、近年の“応援消費”や“エシカル志向”の広がりがある。生活者は企業だけが利益を得る構造に敏感になっており、働く人が適切に扱われているかを重視する傾向が強まっている。
▶ 消費者(筆者)の本音
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「いいサービスは、いい待遇から生まれる」
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「働く人の給料が上がるのは良いこと」
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「安さの裏で誰かが搾取されるのは嫌だ」
このように、企業の“人への投資”が生活者の共感を生み、結果として値上げ容認につながる。
■ 3. 「品質向上」は15%と一定の支持、ただし説明不足は逆効果
“より良い商品にするため”という前向きな理由であっても、支持率は 15% にとどまった。
その理由は単純で、生活者が品質向上を実感しにくい からだ。
企業が「品質向上」と伝えても、その改善がどこに反映されるのか、どんな良いことがあるのかが曖昧だと、生活者の納得度は高まらない。
▶ 消費者(筆者)の本音
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「何が良くなったのか分からない」
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「本当に必要な改善なのか疑問」
品質向上は“伝え方次第”で評価が大きく変わる領域である。
消費者が納得する値上げ理由の3つの共通点
- 生活者に“実感”があるか
ニュースや日常生活で物価上昇を感じやすい理由は納得度が高い。 - “誰かのため”になっているか
従業員の給料アップなど、人への投資は共感が得られやすい。 - 誠実な企業努力が伝わるか
「吸収努力をした上での最終手段」という透明性が重要。
■ 4. 「配送コスト上昇」はわずか7%。なぜ支持されないのか?
最も理解が得られなかったのは、配送コストの上昇(7%) という理由だった。
物流は生活者から見ると“裏方”の領域で、実態や構造が見えにくい。
その結果、
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「企業努力で改善できるのでは?」
-
「他社は値上げしていないのに」
と不信感につながりやすい。
▶ 消費者(筆者)の本音
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「配送コストは企業側の事情に聞こえる」
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「自分に直接関係ないように感じる」
生活者が具体的なイメージを持てない理由は、説得力を欠く。
■ 5. 生活者が「納得する値上げ」の条件とは
アンケート結果から見えてきたのは、
値上げが受け入れられるかどうかは「金額」ではなく、
“理由の理解度” × “説明の透明性” によって決まるという事実である。
生活者が納得しやすい値上げの共通点は以下の通り。
【1】生活者が実感できる
例:原材料価格の上昇
→ ニュースや身近な物価から実感しやすい
【2】誰かを支える理由がある
例:従業員の給料増
→ 人への投資、倫理性への共感が生まれる
【3】企業努力が感じられる
「値上げするしかなかった」と納得するためには、
企業が費用削減に取り組んできた姿勢が必要。
【4】メリットが具体的に伝わる
例:品質向上
→ 「良くなる点」を数値や改善事例で説明すると理解が増す
■ 結論:値上げは“理由”ではなく“伝え方”で理解される
今回の結果は、消費者が値上げに反対しているわけではなく、
「納得できる理由かどうか」 を見て判断していることを示している。
特に、
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不可抗力である原材料高騰
-
人への投資である従業員の給料増
の2点は、生活者の共感を得やすい理由として浮かび上がった。
今後、値上げが常態化する中で、企業に求められるのは、
単なる「お知らせ」ではなく、
生活者の理解を得るためのコミュニケーション設計 である。
誠実に、透明性を持って、背景を丁寧に伝える企業ほど、
生活者に選ばれ続けるだろう。
編集後記
本調査は、値上げそのものに対する賛否ではなく、
「理由がどのように理解され、評価されるのか」 に焦点を当てた。
結果から明らかになったのは、
生活者が価格改定を感情的に拒否しているわけではないという点である。
むしろ、値上げの背景をどこまで具体的に想像できるか、
またその負担が誰のために使われるのかを冷静に見極めている。
原材料価格の高騰が高い受容度を示したのは、
外部環境の変化を生活者自身が体感しているためであり、
従業員の給料増加が一定の支持を集めたのは、
企業活動の持続性を“人”の側面から捉える視点が広がっていることを示している。
一方で、配送コスト上昇のように構造が見えにくい理由は、
合理的であっても理解に結びつきにくい。
この差は、値上げの是非ではなく、
情報の非対称性と説明設計の問題 と言えるだろう。
今後、価格改定が常態化する局面において、
企業に求められるのは「理由を列挙すること」ではない。
生活者が判断できる材料をどこまで開示し、
納得に至るプロセスをどのように設計するかである。
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